その恐怖は、襲われた者にしか分からない想像を絶するものなのだろうが…。
つい、小一時間程前に賊の襲撃に合ったというのに、平然とした態度で持参していた菓子を食べる………この、男装をした奇妙な貴族の女。
女とは、神経が図太く出来ているとは聞いていたが…なるほど。
百聞は一見に如かず。
確かに、図太い。図太過ぎる。
街の民からは、その存在を意味も無く畏怖されている狩人の自分が目の前にいるのにさえ、動じない。
………初対面で命令してきた時点から、既に何かがおかしいが。
小高い岩山の、あまり広くはないが狭いとも言えない洞穴に、この奇妙な組み合わせの二人はいた。
ここは、ザイが昔偶然見付けた洞穴だった。
岩山の端にある大きな亀裂。人一人入れる位のその暗い口に入れば、そこは薄暗い空間が広がっている。
表は背の高い針葉樹に囲まれているため、雪は入って来ないし、出入口である岩山の亀裂を雪で塞いでしまえば他人は疎か、獣も入ってこれやしない。
円みがかった凸凹の天井からは、何処からか外の空気が入って来るため空気穴を空ける必要も無い。
これまでにも何度か野宿で使っているこの洞穴に…まさか他人を入れる日が来ようとは。
暗がりに隠れて、盛大な溜め息を吐くザイ。
そんな彼を、小さな焚火を挟んで向かい側に座る女が興味深そうにジロジロと観察していた。
手の平にあった最後の菓子を口に放り込んで飲み込むと、その小さな口を開いた。
「………ねぇ、貴方って狩人とかいうのよね?…本で見た通り、白いマントだし…武器も持っているし………見るからに野性的…と言うか原始的だし…………………………ねぇ、聞いてるの?」


