再び唖然とするザイに、女は容赦無く小声で喚いてきた。
マントを掴み、低い背丈を爪先立ちで懸命に伸ばして、耳元に向かって叫んでくる。
…甲高い、命令口調の声が。
「ちょっと!見れば分かるでしょうよ!あたしは襲われてるの!追われてるの!ヤバイ連中に誘拐されようとしているの!ほら走って!!あたしを助けなさい!拒否権は無しよ!走ってってば!!」
………。
………何か非常に、釈然としないが………ザイは首を傾げながら、とりあえず、走ってみた。
…何故、私が?…という疑問が脳裏を飛び交う中、ザイは走りながら軽い女をまるで荷袋の様に肩に担ぎ、深い森林の奥へと身を投じた。
…抱え方が不服だったのか。何やら女が愚痴を叫びながら背中を叩いてきたが、ザイは無視した。
街の民…特に貴族とは関わりたくないと思っていたザイ。
…こんな展開は決して望んでいなかったのだが、見て見ぬ振りを出来る状況でもなく、面と向かって助けろと訴えてくる女の言う事を無視できない自分もいたせいでこうなった。
今日は、厄日か。
…賊が追ってくる気配は無い。とにかく今は安全な場所にまで行くことが先決。
この素性の知れない女から話を聞き出し、街に送り届けるのは、それからだ。
賊に襲われれば、たいていの者は恐怖に駆られるものだ。狩人は別として。
特に女性は、このデイファレトでは新しい命を生み出す神聖なものとして社会的立場は高い方なのだが、落ちぶれた人間の集まりである賊からしてみれば、女は女でしかない。
人質として誘拐した後の扱いは酷く、暴行、強姦をされて雪山に遺棄された凍死体を、ザイはこの目で何度か見ている。


