自分よりも遥かに小さい背丈の女は、今の落下及び衝突によりクラクラとする頭を抱えながら、辛うじで立っていた。
…今にも膝を突きそうな細い身体を、ザイはとにかくしっかりと支える。
女は、あまりお目にかかれない様な、上品な衣服に身を包んでいた。
高級な衣服だというのは分かるが………問題は何故、男装をしているのかという点である。
おまけに深く帽子を被り、顔を隠している様だ。
…一見若い青年だが、ザイにはそんな変装など意味も無く、一目で女だと見破っていた。
見たところ、武器らしき物は持っていない様だ。女の上品な姿と坂から落下してきたこの状況から…どうやらこの女が襲われた貴族らしい。
坂の上からは、数人の男の喚き声が聞こえてくる。ポツポツと聞こえてくる会話に耳を澄ませば……今、この女を捜しているようだ。
幸い、賊達の目は坂の下には向いていない。だが、直ぐに見付かるだろう。吹雪で視界が悪いとは言え、人影の一つくらいは確認出来る。
………とにもかくにも、この貴族の女にとってもここから離れた方がいいのは明確な事だ。
(………斬る、か…?)
…無駄な争いは好まないが、いっそのこと切り捨ててしまった方がいいかもしれない。
空いている方の手でザイは剣を掴もうと腕を伸ばした。
………が、厚い革手袋を嵌めたザイの大きな手が束に触れるか否かという寸前………その腕を、やけに華奢な手が…ガシッと掴んだ。
その小さな不意打ちに、大きく目を見開いたザイの瞳は自分の腕を掴む手を辿っていき…。
………睨み付けてくる小娘の眼光と、ぶつかった。
「―――…走って」
「………は…?」
「だから走ってって言っているのよ!二度も言わせないで!」


