…坂の上から木々を通り越して聞こえてくる数人の交わる声。
それは会話などという生易しいものではなく…喚き声。
騒々しい音が響き渡る中、金属がぶつかり合う音と共に誰かの悲鳴が上がった。
………襲われている?
ザイの脳裏に、最近頻繁に出没しているという賊の存在が浮かんだ。
音からして、その人数は数人。自分がいる場所とは反対側の森林で身を潜めていたのだろうか。
…否、先程まではそんな気配など無かった。…と、すると。
(………あの馬車…最初から尾行されていたな…)
恐らく…だいぶ前から付けられていたのだろう。日暮れ時。人気の無い場所に来た所を見計らって襲撃する手筈だったのだ。それまで馬車の遥か後方に金魚の糞の如くひたすら付けていたに違いない。
…そうこうしている内に、響き渡る騒音は悲鳴の連続へと変わっていった。
図太い男の、低い下品な声が飛び交う。
………聞いている限り、賊の方が優勢の様だ。
馬車の護衛を殺し、乗っている貴族を誘拐するつもりなのだろう。
…そんな凶行が目前で行われているにも関わらず、ザイは、佇んでいるだけだった。
坂の上を見上げたまま、揚げ句、剣を鞘に戻してしまった。
何人死のうが、殺されようが………貴族も賊も、元を辿れば街の民。
街の者の厄介事は、街の者で解決すればいい。
(………関係、ない…)
…こんなふうに思うのは、非情かもしれない。
だが、立場が逆ならどうだ。
狩人同士の醜い乱闘を、街の民が解決してくれるのか。…否、有り得ない。
彼等は、平民以下の狩人など眼中に無く、存在自体屑も同然と見なしている。
彼等がそうならば、我々とて同じ。
やりたければ、好きなようにやればいいのだ。


