レトを真後ろに寄せて、ザイは外に目を向けたまま小声で囁く。
「…………荷を持て。………今から外に出る。指示を出すまで………私から離れるな…」
「……うん」
言われた通りにレトは袋を背負う。
………闇に塗れた銀世界の遙か彼方。
凡人には何も聞こえないこの空間でも、狩人の研ぎ澄まされた耳には、風とは明らかに違う異質な音が響いて来る。
………二人は弾かれた様に、何の前兆も無く地を蹴った。
歩き辛い深雪を物ともせずに駿足で駆けて行くザイと、それに続く小さなレト。
この暗闇の中、立ち並ぶ凍て付いた木々をすんなりと避けながら、二人は音のする場所へ近付いて行った。
………数百メートルと近付いた小高い丘の辺りで、ザイは真後ろのレトに向かって手を上に仰いだ。
合図を理解したレトはザイから離れ、側に佇む高い樹木に、手足を掛けて一気に上った。
俊敏な動きでどんどん上っていき、尖った樹木の先端でピタリと止まった。
ザイはその樹木の幹に隠れ、息を潜めた。
「………何が見える…?」
「………谷底…。………………吹雪でよく見えないけど……何か大きいのと………火花が見える……………………………狩人が一人、獣と応戦してる………」
ザイは黙って、幹から幹へと移り、少しずつ前へ進んだ。
レトは一旦木から降りてその後に続いた。
二人は森の先にある深い谷底の側まで来ると、身を屈め、匍匐前進しながら近寄って行った。
白いマントで雪と一体化した状態で、谷底を覗き込んだ。
………ボロッと崩れて谷に落ちそうだった雪を、寸前で掴み取る。
………一握りの雪だけでも、命取りだ。


