弓なんか使わなくても目力で射殺せそうな男の視線に、身体は硬直した。
そのまま数秒間、蛇に睨まれた蛙状態が続く。
………真後ろに佇む男は不意に視線を逸らし、フードを深く被り直しながら口を開いた。
「―――…乱入して、すまなかった。………見ていられなかったものでな…」
…他人の仕事に助太刀に入った事を謝り、男はそれだけ言って踵を返した。
…確かに、他人の仕事に乱入するのは少々無粋な事だが…自分からすれば彼は救世主である。
この無言で背中を向け、立ち去ろうとする善人を唖然と見詰めながら、傍らで未だ硬直している仲間の男を小突いた。
「………おい、あいつ誰だ?見掛けない面だが…」
「―――…嫡子だ…」
「…え?何だって?…ちゃく…?」
「…お前…本気で分からないのか?………『ザイロング』だ!………名前くらい知っているだろうが…!………あんなに近くで見たのは初めてだ…」
………『ザイロング』?
………ザイロングといえば…あの………。
(………あの救世主が…あの………)
…ザイロングという名を、狩人の世界で知らない者はいない。
顔は知らなくとも、この名前だけは皆必ず知っているのだ。
…彼は、有名だ。なぜなら彼は…。
「………おい、お前…何処にっ…!?」
かの有名人であるらしい男の背中について行こうとすると、当たり前だが、仲間の男は素っ頓狂な声を上げた。
あの男についていく人間など、きっと自分くらいしかいないだろう。
「………俺は初めて見たよ。折角会ったんだ。一期一会ってね。…お近づきになるんだよ」
必死な制止を振り切り、意気揚々と『ザイロング』を追い掛けた。


