意識ははっきりしているが、身体が思うように動かない。
…駄目元で、改めて剣を構えた。
「伏せていろ」
不意に鼓膜を叩いてきたその声。
低い、何処か威圧感のある声に………直ぐさま身体は反応した。言われるがまま、犬を目の前にして反射的に伏せた途端………頭上を、長い弓がブンッと横薙ぎに払われた。
…矢を射るための弓がまるで槍の様に宙を踊り、数匹のブロッディをまとめて薙ぎ払った。
吹っ飛ばされたブロッディは直ぐさま身体を起こそうとしたが、それさえも叶わず、ほとんど間を空けずに氷の矢が彼等の首に連続して突き刺さった。
あまりにも力強い勢いのある矢のせいか、ブロッディ達の首は千切れ、積雪にゴロゴロと転がっていく。
「………」
最初は威勢の良かった犬達がほうほうの体で逃げていくのを眺めながら、ゆっくりと立ち上がった。
もう一人の仲間の男も無事だったのか、雪塗れのマントを軽く払ってこちらに歩み寄って来ていた。
………だが、瞬間。
何を見たのか、その男の顔が一気に強張った。
揺れる視線の先は、自分…否、背後。
………瞬きを繰り返し、小さく首を傾げてゆっくりと振り返ると………白、一色。
あれ?…ああ、これは狩人のマントで…。
視線を少し上昇させれば………獣と変わらない、殺気立った瞳と、目が合った。
暗い瞳に、永遠に燃え続ける炎を宿した………大柄な男が、無言で、しかも真後ろに立っていた。
気配なんて全く感じられない。まるで空気の様な存在。だが…空気は空気でも重い…冷たい空気。


