亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…ハッと我に返った直後、頭上から更に血の雨が降ってきた。


切ってもいないのに、何故返り血が?
…困惑したまま、頭痛やら吐き気もあっという間に忘れて、直ぐさま頭上を見上げた。








―――途端。

視界いっぱいに飛び込んできたのは。




鋭利な牙を覗かせて大きく口を開いたブロッディ………の、生首が二つ。

いや、三つ、四つ…。

「………え…」



返り血の雨に続く、生首の雨。
…何ともグロテスクな光景に唖然としながら、回転しながら落ちてきたその内の一つを条件反射で受け止めた。


両手に抱えるそれはズシリと重い血達磨の生首。殺気を秘めた鋭い目玉は自分をじっと睨んでいたが、その瞳に生気は無かった。

ふと、足元を見回すと…同様の生首の他にも、ピクピクと痙攣する首の無い胴体が幾つか転がっていた。






本の数秒。一秒足らずの間に、ここで何があったのか。
飛び掛かってきていた筈のブロッディは、今現在無惨な屍と化してそこらじゅうに横たわっているではないか。


訳が分からないまま、とにかく生首を無造作に捨てると………すぐ頭上を、見慣れた氷の矢が空を切って過ぎって行った。


…狩人の矢だ。

それも、とてつもなく速い。



何処からか放たれた狩人の矢は躊躇いも無く吹雪の中を突き進み、何も無い厚い積雪に減り込んだ。………かと思いきや、実はそこにはブロッディが潜んでいたらしく、矢は見事その頭を貫き、真っ白な地面から鮮血が吹き出していた。


矢は、自分達二人がいる方向とは逆から飛んできた。

…他に誰かいる。








後ろか、と振り返った矢先、木々の影から数匹のブロッディが現れた。