街の民も狩人も、獣さえも近付こうとしないこの『禁断の地』という名の異世界。

疲れきった頭の中では、何故自分はこんな所を息も絶え絶えにしながら歩いているのだろう…という、客観的な考えが渦巻いている。



…だが、そんな下らない考えは全て、依存する執念の如き一つの固い意思の前では塵と消える。




















ザイは、歩いた。








銀世界を歩き続ける身体は、蓄積し過ぎた疲労にもはや悲鳴を上げることさえも忘れていた。
凍てつく寒さも、痛みも、痺れも、何も感じない。


…気が付けば、丸二日飲まず食わずである。

あの夜。あの、冷風に見舞われた夜から、ザイの目は開いたままだった。









針山地帯に巣くう凶暴な獣を避けて城に向かうには、危険な道を通らねばならなかった。
これまでの道のりとは違って、サリッサには体力的に辛過ぎると判断し、最寄りの街に留まる様にと話したが…彼女は、それを拒んだ。

…ただの足手まといにしかならないかもしれないけれど、何が何でも城に行く…と、彼女は言った。
………それから、今に至る。














雪を踏み締める二人は、我が手から離れてしまった我が子の事を、一言も話さなかった。
………息子の安否を、口にする事はなかった。



冷風に巻き込まれれば、最後。
風が通った後には、見るも無惨な凍てついた屍しか残らない。助かった人間など、いない。













皆、死ぬ。


















…ならば、既にあの子は。
























…何かに取り憑かれた様に、ただひたすら………ザイは歩く。