暗がりの奥にユノの姿が見えなくなると、レトは改めて頭上を見上げた。
視線の先では、見えない階段を上り下りしているかの様に宙を歩くノアの姿。
…ユノを怒らせたことに関しては反省の意思は全く無い様で、宙でクルリと一回転しながら退屈そうに欠伸を噛み殺している。
レトは地上で独り佇んだままじっとノアを見上げていると、その純粋無垢な視線に気がついたのか、浮上していたノアがゆっくりとレトの元へ下りてきた。
宙に靡く緑の髪は、まるでオーロラの様だ。
手を延ばせば触れられる程互いの距離が縮まると、好奇心に満ちたレトの瞳はノアの微笑を視界いっぱいに映した。
「………………凄いね…ノアって、飛べるんだね…」
「おや?…近頃の狩人はきちんと会話が出来るのですね。一昔前までは通訳無しではやっていけなかったのに。感心感心」
頬に手を添えてクスクスと笑みを漏らし、ノアはレトの前にゆっくりと降り立った。
…目の前に立つノアはやはり長身で、ほとんど真上を見る角度で頭を上げなければならない。
「………ノアって…変だね」
首を傾げながらポツリと呟いた言葉に、ノアの笑みが深くなった。
「おっと、直球できましたか。さすがは狩人…幼き子供でも侮りがたし。その伝統ある優れた弓に番える凍てついた矢は、狙った獲物の命とハートを容赦なく射止めますね。ああー怖い」
何か喋る度に大袈裟なリアクションをとるノアだったが、微動だにせず見上げるレトは静かに首を左右に振った。
「………変だよ。だってノア………ユノを見てる時悲しそうなのに………顔は、笑ってるんだもん……………仮面被ってるみたい」


