グスン、と涙と鼻水を垂らしておいおい啜り泣く。
そんな彼女を空気同然に完全無視し、リストはまだぼんやりとする頭で現状把握を試みた。
…今いる部屋をぐるりと見回して………ふと、気付く。
「………………ガキとノアは何処行った…?」
イブの存在はとりあえず置いておいて、どうしてこの部屋は静かなのだろう…と首を傾げていたが、答えは簡単だ。
………騒音の元凶が足りないからだ。
何気ないリストからの問いに、隣で盛大に鼻をかむイブが元気の無い声で呟いた。
「………ノアはなんか…楽しそうにクルクル回りながら出ていった。………王子様とレトレトはそれについて行ったよ。…一緒に混じってた女の子は、そこの隅で寝かされているけど…」
…と言ってイブが指差した方に目をやれば、確かに。向かい側の部屋の隅に、暗闇に塗れて少女が横たわっている。
顔を埋めて眠る彼女の身体には、寒くないようにと白いマントがきちんとかけられている。…あの白いマントは狩人独特のものだ。レトがかけてあげたのだろうか。
「………なんか怪我してるみたいで、あの娘、動けないらしいよ―。ここで暖かくして寝ててね―…って、レトレトがそれはもう優しく寝かせてあげてた。…傍から見ててなんか、メロドラマの可愛いワンシーンみたいだっ…」
―――…瞬間、小さいけれども殺意はとても大きい鋭い投げナイフが、イブの顔の真横に突き刺さった。
イブは無表情でそのナイフを抜き取り、投げた張本人である少女を一瞥した。…よく見えないが、横たわる少女のマントから覗く耳は…真っ赤だった。
「………お前、ちょっと黙っとけ」
向けられた殺意から何かを察したらしいリストが、ナイフを手元でクルクルと回して遊ぶイブにポツリと呟いた。


