「………真っ暗闇の中に、花が見えた。綺麗な花がたくさん………そうか…あれがあの世ってやつか………あ…まだなんか一瞬見える…」
ノアの強烈な隠し必殺技、でこピンによって本当に一瞬昇天しかけていたらしいリスト。
数分後、彼は無事、息を吹き返した。
ほんのりと赤い額を押さえ、数秒間悶えた後………二言三言、訳の分からない言葉を漏らし、我に返った。
彼曰く、暗闇の奥から追い掛けてくる多くの見知らぬ他人の手をかい潜って戻ってきた、生還した、とか。
妙にリアルでちょっと怖かったらしい。
昏倒したリストを一先ず運び込むため、当の加害者であるノアが一同を案内したのは、入り口のある広間から少し歩いた場所にある、広々とした殺風景な部屋だった。
部屋は廊下と変わらず冷たい空気が漂い、天井のシャンデリアからは長い氷柱が伸びていて……とにかく、城内は何処もかしこも凍てついていた。
城は吹雪と風が無いだけで、他は極寒の外と何等変わらない。
正直に言おう。 寒い。
長い間使われていない、焼け跡の酷い家具も全てが凍り付いていて、椅子に腰掛けてもクッションが固く、加えて冷たい。
立っている方がまだマシだ。
ひんやりと冷たい大理石で横たわっていたリストは、まだヒリヒリと痛む額を押さえて気怠い身体を起こした。
隣で膝を抱えて座っていたイブは、退屈そうに大きな欠伸を一つ。
「………今…どれくらいだ?…もう夜なのか?」
「とーっくに夜だけど。…日付はまだ変わってない。……寒いよ…お腹空いたよ…………………隊長、あたしを置いてあんなジンなんかと一緒に今何処にいるの―…」


