亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



飼い犬か何か…とにかく人外の扱いを受けた揚げ句、『お手』と命じられた事に、一気にリストの怒りのボルテージは沸点を越した。
貼り付けた笑顔は辛うじで健在だが、それもいつ剥がれることか。…それも時間の問題であることは、彼の震える拳を見れば一目瞭然だった。

背後から、イブが口パクで「我慢」と言っているのが見える。



抑え切れない怒りを残り少ない理性でどうにか鎮圧させ、ノアとの会話という再チャレンジに挑んだ。
…コホン、と一度咳払いをし、リストは今度は笑顔無しで真剣に話を進めることにした。最初から彼は真剣そのものだが。


「………捨てられないプライドがあるので、お手はしません。…あの……貴方も知っているでしょうが、戦士の月…弓張月が昇るまでもう時間がありま…」

「え?何ですか?こんなか弱い老人から一体何を根掘り葉掘り聞き出そうというのですか?…折角の久しい人間との対談……会話は好きですが、質問攻めは嫌いです。私、攻められるより攻める方が大好きです」

「いや、何の宣言だよ!?あんたの趣向なんか聞いちゃいないよ!!………ああもう…!そんな事が聞きたい訳じゃ…」


もうこの際、敬意を払うとかこのノア相手にそういうのは止めよう。
疲れるだけだから。

このままでは話が進まない…埒があかない、と次第に苛立ち始めたリストはズカズカとノアの目の前にまで歩み寄った。


…直後。

ノアの入れ墨だらけの細い指が、不意にリストの目と鼻の先に現れ………彼の額の辺りで止まった。

その向こう側に見えるノアの顔が、思わず見とれてしまうくらい綺麗な笑みを浮かべた。








その光景を眺めていたレト、ユノ、ドールの三人の子供は、ノアのその姿勢が何なのか…いち早く理解した。






あれは…でこピン…。