主にしか口を利かないという性質は、ノアに関してはとっくの昔に崩壊しているが………こうやって自然に会話が出来るというのは、有り難い事だ。魔の者と会話など、きっと何処の国に行っても叶う事ではない。他人に口を利く魔の者は、世界でもきっとこのノアだけだろう。
………ノアに尋ねたい事は山ほどある。
城に入れてくれたノアは、どういった了見でこうやって歓迎してくれているのか分からないが………やけに上機嫌なノアの様子からして、こちらは敵と見られていない様だ。
何者かお見通しらしいが………そもそも、ユノが王族の人間という事が分かっているのか。
…正面に立つユノを見ても、ノアはこれといって特に目立った反応も見せない。…気付いていないのではないか。
…ニコニコと人の良い笑みを浮かべ、ぺらっぺらと話すその姿。…人から聞いていた世間一般の魔の者とはあまりにも違うその姿に、ユノは半信半疑の眼差しでノアをじっと見上げた。
「………魔の者って…主としか話さないんじゃなかったっけ?…大人しいとも聞いていたけど………えー…何か全然違うんだけど…」
…そう呟いた途端、ニコニコ笑顔だったノアの端正な顔から………天使の如き笑みが、ふっと消えた。
…そのまま無表情で明後日の方向を見詰め…一言、言葉を吐いた。
「そういうイメージに合わせるって……………………面倒じゃん」
「タメ口…!?」
敬語も丁寧語もへったくれもない、ポロリと出てきたまさかのノアのタメ口に、イブは即座に突っ込んだ。
会ってまだ数分。お客様だとか何だとか礼儀正しくしていたノアは、今のタメ口を機に急にだらしなく頭を掻き、天井から伸びていた氷柱を砕いて何故かガリガリと噛み砕いている。
何だ、この生き物。


