「………お前と他愛の無い話をするのも、楽しいものだな、リイザ」
「………」
兄とその付き人の背中が、次第に小さくなっていく。
暗闇が漂う廊下の先へと向かうその姿は、まるで闇に溶け込んでいく様だった。
「…リイザ」
半ば、視界の奥に見えなくなったアイラの声が、廊下に響き渡る。
兄の呼ぶ声に応えるべく口を開いたリイザの舌先まで出ていた声は………返事を待たない兄の言葉によって、遮られた。
「―――…お前は、昔から私の後ろについて来る可愛い弟だが…。…………………………………構わないんだよ………私の前を、歩いても…」
憂いを孕んだ兄の微笑が、去り行く足音と共にやけに響き渡る余韻となって………この長い廊下を走り、独り佇むリイザに纏わり付いた。
日は、暮れていた。
一寸の狂いも無く、未だに逸らされる気配の無いリイザの視線の先には、既にアイラの姿は疎か…彼の気配も、何も無く。
物言わぬ、空虚な漆黒の闇だけ。
リイザを止まらせているのは、意味深な…兄の言葉だけ。


