「…兄上、私も兄上の被っていらっしゃる仮面の下の表情を、存じております」
「それは…嬉しいな。………さすがは血の繋がった弟と言うべきかな。しかしね、リイザ…」
不意に、アイラはリイザに振り返った。少し背丈の低いリイザを見下ろせば………静かな炎と底知れぬ闇を宿した幼い瞳と、目が合った。
………息を潜めて獲物を狙う、小さな獣に見えた。
アイラは苦笑を浮かべ、そっと………自身の右手で、自分の端正な顔を覆った。
細い指の隙間から、細めた目を覗かせる。
「…多分、お前が知っている私の顔は………仮面の下の、仮面だ。………残念だがね」
「………左様ですか。…兄上は、真の道化よりも………仮面を被ることに長けていらっしゃるのですね」
………敵だけでなく、味方にさえも、真の姿を晒け出さない。
それをやってのけるアイラは優れた策士である、とリイザは言ったが………当のアイラは、「残念だが、それも違う」と溜め息混じりに言った。
…踵を返し、アイラはリイザから顔を背け、再度ゆっくりと歩き出した。
天井を見上げたまま、彼はポツリと呟いた。
何処か虚ろな、生気の無い亡者の囁きの様な声で。
「………………私は、私が分からないだけなんだよ、リイザ。………それだけさ」
…そう言うと、アイラは軽く手を上げ、小さく振った。
それが合図だったのか、それまで黙って壁に寄り掛かっていたアイラの付き人のカイが動いた。
先端に緑の石が減り込んだ長い杖を掴み直し、一瞬だけログを睨むと……足早に主の元へと向かった。
リイザには擦れ違い様に軽く会釈をしただけで、カイはアイラの後ろについて行った。


