ユノの一言に、レトは小さな声で答えた。
本の一瞬だけ微笑を浮かべ、ただ短い言葉を一言。
「そうだね」
と、返した。
その直後、力無く垂れ下がっていたレトの右手の剣は、スッとその鋭く尖った頭を持ち上げ。
まるで踊っているかの様な、しかし目で追うには早過ぎる軽快な動きで孤を描き………。
大きく口を開いて飛び掛かって来ていた正面のエコーの首を、一瞬で刎ね飛ばした。
大きく見開かれた白い眼球は空を仰ぎ見、雪に塗れ、囲むエコー達の足元に転がり落ちた。
頭の無くなった身体からは、行き場を失った黒い血が噴水の如く噴き出した。
がくがくと痙攣しながら崩れ落ちていくそれをレトは邪魔だと言わんばかりに脇に蹴飛ばし……前に向かって、二人は走り出した。
決意を固めたあの夜の時に、今の心は似ている気がした。
二人が走り出した途端、エコー達の猛々しい咆哮が空気を揺るがした。
地上では使わない尾びれを両腕と共に器用に動かし、腹ばいという体勢にも関わらず、恐ろしい速さでエコーの群れは牙を剥き出しにして二人を追う。
中にはアーチ状の柱をわざと破壊し、その華奢な身体には似つかわしくない化け物じみた強力で、巨大な柱を投げるものもいた。
両端の池から次々に、エコー達が踊り出てくる。
あちらこちらから、拳大の氷が雨の様に降ってきた。
……当たれば痛いでは済まない。
恐ろしい悪鬼の形相をした何十もの化け物に追われながら、二人はただ走り続ける。
この道の先で固く口を閉ざした、あの巨大な扉を目指して。
(………案外速い…)
ちらりと背後を一瞥して、レトは思った。


