亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


ズシャッ、と空を舞っていたエコーの腕が地面に落ちるのと、鈍く光るレトの剣が鞘に納められたのは、ほぼ同時だった。


腕を無くしたエコーがレトを見上げると……レトは無表情で、しかし恐怖を感じさせる鋭い目で、エコーを睨み付けた。






「―――…ユノに触らないで…!」




―――その途端、目の前で微笑んでいた半透明の少女の顔が、悪鬼の如く醜いものへと豹変した。

激しい憎悪と怒りに身を震わせながら、それまで見えなかった牙を剥き出しにするエコー。
額やこめかみ、首に走る浮き出た青い血管。
普段の金切り声も、今は低い唸り声に代わっている。


溢れ出し、足元に小さな水溜まりを作っていくエコーの黒い血液は、何とも言い表せない悪臭を放っていた。



周囲にいたたくさんのエコー達も、次第にその穏やかな表情を歪ませていく。尾びれで地面を叩く単調な音が、何十もの数の群れとなって響き渡った。


「………これって…最悪な状況なのかしら…」

「………」

耳元でドールの嘲笑交じりの呟き声を聞きながら、レトはユノの手を引いて一歩後退した。

正面から鼻息が荒いエコーの視線を感じるが、前にばかり意識を集中している訳にはいかない。


今は、囲まれているのだから。




「………ドール…僕、ちょっと動くけど………しがみついていられる?」

ユノを庇いながら、且つ剣を扱うとなると、背負っているドールを支えることが出来ない。かと言って、彼女を捨てるつもりもない。

レトの問いに、ドールは溜め息を漏らした。




「………だから、置いて行けば良かったのよ。お荷物になるのは御免だもの。…ここにあたしを置いて、さっさと行きなさい……と、言いたいところだけど。…………あんたの言う通り、しがみついておくわ。…こいつらに遊ばれるのは、もっと御免よ…」