…不可思議な行為をとるレトに、ドールは訝しげな表情を浮かべた。
「………何?…ぐずぐずしてるとあの王子様、見失うわよ…」
後頭部に直接ドールの声がぶつかってくるが、レトの意識はただ………城壁に、向いていた。
城壁。
城壁の、向こうから。
…声が、聞こえた。
………雪の精とは違う、もっとはっきりとした…。
…………………………壁の向こうから、見られている。
………そっと、レトは目を閉じた。
皆が見えない、聞こえないと言う精霊の気配が、何となくだが分かるレトは、精霊と会話もする。接し方を感覚で知っている。
だから………聞こえてきたこの声とは…。
………まともに会話をしてはいけない、と本能で悟った。
「………何もいないよ」
城壁に向かって小さく囁くや否や、レトはユノの元へと走った。
ドールは訳が分からないまま…ただ背中で揺れるしか術が無かった。
―――…何も無い?
―――何も無い。
―――何も無い。
―――何も無いものが、ある。いる。あった。いた。
―――何も無いがいた。
―――いらっしゃった。
―――いらっしゃった。
―――いらっしゃった。
―――お客様がいらっしゃった。
―――いらっしゃった。
―――いらっしゃった。
―――歓迎。歓迎。
―――歓迎を。主様。


