咳込むドールのすぐ傍に呑気なアルバスが近寄って来たが、彼女は辛うじで動く指先で面倒臭そうにシッシッと追い払った。
「………坊や達には言っておくけど……あたしはもう、あんた達の敵でも何でも無いからね。………そこの王子様を殺す理由も無いし………無関係。………あたしはもう関係無いのよ………あー…疲れた…」
そう言って、ドールは力無く首を垂れた。
…もう、どうでもいい。どうせ死ぬのだ。
どうせ帰れないのだ。
帰ったところで、遅すぎるのだ。
生きていく理由が無い。
夢が無い。
目標が無い。
もう、自分の支えだった父はいないのだから。
いっそのこと、もうここで殺してくれないだろうか。
敵方に見付かって…ちょうど良かった。
狩人ならば、一寸の狂いも無く首を撥ねてくれるだろう…。
…そんなことを思いながら、ふと顔を上げたドール。
彼女の視界には…。
何故か、焚火を起こそうと持参していた藁に火打ち石を近付けている…子供の狩人のしゃがんだ後ろ姿が見えた。
………あ?、と怪訝な表情を浮かべるドール。
「………ここでご飯食べようよ、ユノ。………あ、匂いが天井の穴から漏れちゃうね。………外の雪で塞ごうっと……」
…呆然とするユノとドールを傍目に、軽快な足取りで天井の穴を塞ぎに行くレト。
この狩人のガキ、今何て言った?
ここでご飯食べよう、とか言わなかった?
天井を塞ぎ終え、大量の雪も一緒に抱えて帰ってきたレトは、その一部を荷袋から取り出した小さな金属製のカップに入れ、焚火の傍に置いた。


