…それは微かだったが、敏感なレトの嗅覚は逃さなかった。
濃い、血の臭い。
出血しているのは何なのか。…何かの死体?しかし、場所が場所である。外からは侵入出来ない筈の地下通路なのだから。
「……血の臭いって…何がいるんだい?」
「………分からない。………もっと向こうに行ってみないと…」
どうせ通路は一本道なのだ。避けられるものではない。このまま前に進んで御対面といくしかないだろう。
レトは無言で自らユノの前に立ち、音も無く剣を鞘から抜いた。
…遠目でも危険と分かれば直ぐさま攻撃出来る弓の方が良いが、生憎この地下通路はニメートル強の弓を収められるほど、上に広くはない。
なるべく音を立てない様に、慎重にユノの手を引いて暗闇を少しずつ進む。
…ヒュウヒュウと、頭上の空気穴から冷たい風が降りてくる。二人を包む空気は闇と共にゆっくりと揺らぎ、前へ後へ通り過ぎて行く。
この先に何が待っているのか、という張り詰めた緊張感が、二人を巻き込んで通路全体に息をひそめていた。まるで、獣の様に。
………数メートル進んだ所で、血の臭いの濃さは一気に増した。どうやら、思っていた程遠くではなさそうだ。
ここは空気の流れが悪いため、どうも距離感が掴めない。
「……ここから少しカーブになってる…」
「………」
今まで直線だった道が、二人が立つ位置からは右へと緩いカーブを描いていた。
壁に沿いながら、二人はただ息を殺して歩む。
カーブを歩き、一歩率先して前方を窺うレト。
少し急な、半分は角と言い表してもいいカーブまで来ると、凹凸の激しい壁に頬をくっつけて、レトはその先に目を移した。
暗闇を見据えるレトの瞳が最初に捉えたのは。


