亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


どうやって気付いたのか、とイーオが問えば、ローアンは無言で自分の足元を指差した。
そこには見飽きた積雪の大地が広がっているだけで、これと言ってイーオの目を引くものは何も無かったが、苦笑混じりにローアンは「私の影です」と呟いた。


「………実は私の影の中には、トゥラという名の私の相棒…魔獣ライマンがいるのです。………人見知りが激しいため、呼ばない限り表に出て来ないのですが………数日前から…一向に出て来てくれなくなってしまって…」



呼んでも呼んでも、トゥラはローアンの影から出て来ない。
ただ闇の奥深くでじっとしているのだ。…まるで、何かに耐えているかの様に。



「………それは多分、主である貴女を傷付けまいとしているのね。表に出れば、我を失って貴女に襲い掛かるかもしれない。………優しい、利口な子ね。………分かるかしら、女王陛下様。………………“目覚めの災い”とは、そういうものよ」

「………なるほど」

















―――“目覚めの災い”とはそれ即ち、獣の本能の目覚めを示す。

数ある潜在的意識の中で目覚めるのは、周囲への影響力が高く最も攻撃性のある………『食欲』だ。

この災いが起これば最後、どんなに大人しい動物でも獰猛な肉食獣の様になり、暴走する食欲に身を任せてなりふり構わず襲い掛かるのだという。
仲間や群れ同士の共食いは勿論のこと、最悪人里にまで侵入し、揚げ句人間に容赦無く牙を向けることだろう。







「……問題は…その災いがもう起こっているという事実ね。…獣が人里に下りてきていない事からして、災いの効果はまだ薄いみたい…。でも、いつ彼等の食欲が人間に向いてしまうか…」