亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



確かに。
今現在も尚、背中にしがみつかれたイブに苦戦を強いられ、揚げ句の果てには四の字固めで押さえられている…何とも情けない総団長のジン。

あの二人は紛れも無く、人間と、野獣フェーラ。性別云々の前に、種類から違う。


……そんな大きな違いがあるのだが、ローアンは二人を指差してけろりと述べる。

「だが、現にあれらは常識を超えてしっかりと通用しているじゃないか。人の色恋など千差万別。何でもありだ」

「陛下がおっしゃると、何でも正しく思えてくるから不思議です」


…更に聞けば、ジンがイブに恋慕しているという話は、城では誰もが知る公然の話であるという。………ジンの反応が分かりやす過ぎる故だ。…どうやら知らなかったのは、リストと想われているイブぐらいであるという。

…もう、どうでもいいや…と、リストは深い溜め息を吐いた。


「…いい加減解放してやらんと哀れだな。………イブ、遊びは止めてこっちに来い」

…そう、ローアンが言うや否や……音速や光速を軽く越えた速さで、満面の笑みを浮かべたイブがすぐ傍にまでやって来た。
ローアンのマントにしがみつき、癒しを感じているかの様なにやけた顔を寄せて、その温もりを堪能し始めた。


…一方、イブからの羽交い締めから解放されたジンは………………何事も無かったかの様に身体に付着した雪を掃い、無表情でこちらに歩んできた。



…切り替えの早い奴だな、とリストは心中で呟いた。






「………話を戻すぞ。ジンの説明であった様に…デイファレトの王子は、王になる前に重大な選択を迫られる。…その内容がどんなものであれ…我々としては、世界が無に帰す方を選んでもらっては困る」