亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


最後まで言い終える前に、ジンの声は突然途切れ、同時に目の前に佇んでいたその長身がぐっと…急激に低くなった。



…足元の冷たい積雪に顔面から突っ込み、俯せに倒れているジンの上に………いつ、回復したのか。至極ご機嫌なイブが馬乗りになっていた。

………イブに乗っかられたまま、無言で両手を突いてゆっくりと起き上がるジン。
…普段は見られないそんな彼の姿を、ローアンとリストは冷めた目で見下ろす。


「誰かと思ったらジンじゃーん。あんたって相変わらずいい匂いするよねー。ねーねー、恒例の『ルール無し、五体満足で帰還出来るのか!鬼ごっこ』しようよ。あたしが鬼ね」

「……恒例にした覚えはありません。…イブ=アベレット、退いて下さ、いっ……っ…」

なんとか平静を装って立ち上がろうとするジンだったが、イブはその背中にがっちりとしがみつく。離れるものかと言わんばかりに四肢を絡ませるその様は、親にしがみつく子供のコアラか何かに見えた。

……心なしか、ジンは硬直したまま小刻みに震えている気がす…いや、震えている。胴体に回された華奢な手足をなんとか解こうとしているようだが、イブに触ることに物凄く躊躇っている。

「鬼ごっこ!!鬼ごっこ!!何が何でも鬼ごっこ!!今日勝てば三十勝0敗の記録なんだから!!そう簡単に逃がすものか…!!」

「……百でも二百でも勝手にカウントして戴いても構いませんから!……ちょっ…!……とにかく…離れて、下さいっ!!」



…茹で蛸の様に顔から耳まで真っ赤になりながらも、イブを引き剥がす事に奮闘するジンを傍目に、ローアンは無慈悲にもリストに話を続けた。


「……あれも恒例の光景だな。リスト、あの二人はほっとけ」

「…え、あ、はい。………あの…ジンって何故あんなに…あのじゃじゃ馬に甘いんですか…?」




…そう思うのも、無理はない。リストからすれば、ジンは歩く凶器そのもので、彼に会う度に冗談では済まない質の悪い嫌がらせを受けている。
いくら記憶を辿っても、彼から恨まれる事など何一つしていない筈なのだが。…多分。