自国の城と定期的に連絡を取り合っているローアンには、フェンネルの様子、バリアンの現状など、このデイファレトにいては分からない情報が送られてくる。
送ってくるのは、アレクセイとダリルから。毎日毎日送ってくるのは、言わずもがな、ルウナである。
昨夜もその連絡の取り合いで、ローアンは気にかかる情報を入手していた。アレクセイからの文を見直すため懐に手を突っ込んだが、自分は持っていないことに気付き、あっ…と声を上げた。
「…そうだ、私は持っていなかったな。ジン、文を」
…と、何も無い宙に手を差し出せば、ローアンの隣に“闇溶け”で消えていたジンが一瞬で姿を現した。
神出鬼没という言葉が最も相応しい人間は、この男に違いない。
突如目の前に出て来た、独特な衣装に身を包んだ眼帯の青年に、顔面蒼白のリストが奇声を上げて跳び退いた。
眼帯をしていない方のやけに鋭い左目が、何故か強敵を前にしたファイターの様に身構えるリストをギロリと睨む。
「………お前がいるの、忘れてた…」
「影の薄い総団長で申し訳ありません。リスト=サベス」
…相変わらずの無感動で丁寧な口調だが、その低い声には小さな刺が孕んでいた。
16歳という若さでフェンネルの名高き国家騎士団の総団長を勤める…一応、あのアレクセイの孫である、ジン=リドム。
彼の武術は剣だけでなく様々な武器を扱う極めて独特なもので、その実力は騎士団の中でも卓越している。猛獣使いでもある彼は隠密の暗殺術も心得ているというから…戦士として生まれてきたと言っても過言ではない。
彼一人いれば護衛は確かに充分である。
テキパキとした動きでジンは綺麗に畳まれた文を取り出し、ローアンから伸ばされた手に差し出した。


