亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



子供とはどんなものか。

…ルウナ様でよく理解していたつもりだったのに…と、リストは己の失態を悔やんだ。








昨夜のイブの伝達通り、ローアンは夜明けと共にこの小さな街に到着した。
暗い森林の奥から彼女の姿が見えた途端、飼い主を見付けた犬の様にイブが猪突猛進の勢いで「隊っ長ぉ―!!」と叫びながらローアンに飛び付いていった。

情熱的な熱いハートを飛ばしながら、愛しのローアンの背中にしがみついたり頬擦りしたり匂ったり抱き着いたり………とりあえず微笑ましい、と表現しておくその光景も、「…止めなさい」と呟いたローアンの拳骨によって幕を下ろした。彼女の鉄拳は想像を遥かに越えた威力で、とにかく、痛い。



…こうやってリストが昨夜の偵察の情報を伝えている今も、イブは視界の隅で殴られた頭を抱えて悶え、雪塗れになっている。


けれど、なんだか嬉しそうだ。
幸せそうだ。




ひんやりと冷たいセミロングの金髪を後ろに払い、ローアンは腕を組んだ。

「…その雪崩での生存者も気になるが…今はやはり、元気な王子様の方が最優先だ。………狩人の少年と二人して仲良く…か」

……あの偶然遭遇した、バリアン兵士の襲撃に合っていた王族の少年とその護衛等が頭を過ぎる。

………空の魔石によって瀕死の状態になっていた王子と…身を梃して彼を守っていた…小さな狩人。


…ようやく漕ぎつけたかと思えば、これだ。
バリアン兵という敵や獰猛な獣等の存在が徘徊する夜中…それも、子供だけで黙って抜け出すとは。

子供とは思えない、何事にも臆びれない勇ましさというか。…単に大胆不敵というか。




「…そうだ。…私からも一つ、伝達がある。……アレクセイからの…少し気になる文だ」