森を抜けた先には、高い高い純白の崖が聳え立っていた。
凍て付いた巨大な崖だ。見上げても頂上は見えない。
その真っ白な壁に向かって歩を進めて行くと、その辺の荒れ地とは明らかに違う、整備された幅の広い一本道が見えてきた。
降りしきる雪に埋もれてよく分からないが、凹凸の無い平面な道である事が分かる。
カーネリアンを抱えた2人はそのまま真直ぐ進み、切り立った崖にぶつかる所まで近寄った。
………するとその直後。
頭上から、ビュッ…という風を切る音が聞こえてきたかと思うと…………。
―――…ぼんやりとカーネリアンの尾を両手で揺らしていたレトのすぐ傍らに、長い槍が勢いよく垂直に突き刺さった。
………頭上から降ってきた槍は、刃先から柄まで小刻みに震える。
………もしかしたら自分に突き刺さっていたかもしれない槍を、レトは半分開いた目でやはり、ぼんやりと見詰めた。
「―――………何者だ……名乗れ!」
吹雪いてきた視界の悪い雪空から、幾つかの人の気配…そして警戒心を露にした声が投げ掛けられた。
「―――………狩人……………狩人のザイだ………この街の商人に依頼品を持ってきた」
普段物静かで大声など出さない父が、頭上に向かって声を張り上げた。
名乗った後、数秒の間を置いて、また同じ声が降りてきた。
「……確認だ。…依頼を受けているのなら札があるだろう。………その槍に結び付けろ」
そう言われて隣りに突き刺さった槍を見ると……なるほど、柄の先に細い糸が結んであり、声の主の方からブラリと伸びている。


