亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



―――それは、数年前。近い様で遠い昔。


色褪せた過去の、どうでもいい記憶。












あの夕暮れ時も、確か………雪が降っていた。
空のお天道様は滅多に雲を押し退けて顔を出さないから、夕暮れであるのかまだ昼間なのかも分からないけれど。


確かに、夕暮れ時だった。

日が落ちて、もうすぐ夜の戸張が光という光を隠してしまうという時だった。

………何を、思ったのか。

コートを掴んで、廊下に誰もいないか確認して、人目を忍んで………暖かい部屋から抜け出した。
扉一枚隔てた部屋の外はびっくりするくらい寒くて、吐いた息はミルクの様に真っ白だった。


寒い。寒い。
…ならば、どうして部屋から抜け出すのだ。
暖炉のあるポカポカした所から、わざわざ寒い所に行くなんて。





…本当。どうしてだろう。何がしたかったのだろうか。

特に何も考えず、コートを羽織り、忍び足で階段を降りて、一階の広間を一人駆け抜けて。

隠れてコソコソしているというこの妙なスリルと、急に走ったせいで、心臓はバクバクと高鳴っていた。
柱の影で一息吐いた後、再度辺りを見回して、誰もいないことを確認すると…なるべく足音をたてない様に走った。



長い廊下を走る。
左右に並ぶ幾つもの扉を通り越した。
頭上のシャンデリアをたくさん仰ぎ見た。
ステンドグラスの七色の光に照らされて…。













………中庭に通じる扉の前で、立ち止まった。

扉の両端にある曇りガラスの窓に、未だに降る雪の白いシルエットが見える。
この扉の向こうは、さぞや寒いことだろう。
手はかじかみ、足は震え、全身がガチガチに固まるに違いない。


…そんなことは、分かっている。

分かっていて………ドアの取っ手に、手をかけた。
錆び付いたそれは、ひんやりと冷たかった。
…案外重いドアだったため、グッと手に力を入れ、ゆっくりと押し開けた。



生み出したドアの隙間から、純白の粉雪が入り込んできた。