亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


普通なら吐き気を催してしまいそうな悪臭に、この親子は何ら気にする事無く、その源である物体に歩み寄った。




白い広場の中央は、鮮明に映える赤。

命の滴である鮮血。


…それが辺りに散乱し……生暖かい水溜まりを作っていた。


………外気に曝されて見る見る内に凍っていく鮮血に浸っているのは………………巨大な、獣。




全長は約五、六メートル近い。
積雪に反射する淡い陽光が、規則正しく並んだきめ細かい鱗を、一枚一枚銀色に照らした。


銀の鱗で全身が覆われた、巨大な鳥。
鷹の様な鋭い嘴には、肉食動物特有の鋭い牙が覗いている。

その太い首には、厚い肉を何かが貫いた様な、小さな風穴が二つ、三つ。………急所であったのか、その傷口からは溢れんばかりの血が迸っていた。

血で赤く染まっていく真っ白な羽は、縦半分が羽毛、もう半分は鋭利な刃物で出来ている。

ぎょろついた大きな黒い眼球は、小刻みに震えながらだんだんと光を失っていった。




鎖に似た長い尾を跨ぎ、レトは死にゆく怪鳥の傍らに近寄った。




………もう動かなくなってしまった、生温い巨体。


その切れ味の良い羽を注意して撫でていると、ふとある事に気付いた。





「…………このカーネリアン……お腹が大きいよ。……………お母さんだったんだ……」

「………出産の時期だったのか。悪い事をしたな。………………レト、早く血に雪を被せろ。……………………風が出てきた。臭いにつられて、獣が集まってくるぞ」


言われた通りにレトは飛び散った血に大量の雪を被せ、このカーネリアンという怪鳥を見下ろした。