傷は小さいが、深い。
その証拠に、膝を突いたドールの真下の雪が、あっという間に赤く染まっていく。
………首を撥ねるなり、胴を断つなり、どうとでも出来る状況で地味に足を狙ってきたのは、この男の質の悪さ故か。
…一太刀で殺すつもりはないらしい。じわじわと追い詰めていく気なのだろう。
「………………本当…最っ…低ね…」
力の入らない手で、足の傷を塞ぐが……生暖かい血は、指の間から容赦無く溢れ出ていく。
衣服に染み込んだ鮮血は、極寒の空気に曝されるや否やすぐに凍り付いた。
「…悲鳴一つ上げないのか。……強情なところは父親譲りか?ハハッ!お前の親父も、いくら切っても殴っても…うんともすんとも言わなかったな。………泣きもしねぇ…叫びもしねぇ………………すぐに飽きちまったぜ。………放っておいたら、いつの間にか死んでやがったな」
「………」
「…お前も何も言わないのか?泣き叫ばねぇのか?命乞いも何も…?………いつまで堪えられるか試してみようじゃねぇか…。………最初は、指からといこうか…」
…下品な笑い声が、頭上で響き渡っていた。
ヒラヒラと舞う真っ赤な蝶が、無慈悲な剣で両断されるのが視界の隅に映った。
『鏡』の残骸が、落ちていく。
飛び回っていた時と変わらぬ速度で、ヒラヒラと、落ちていく。
本体が、切られてしまった。
分身も、すぐに消えるだろう。
…仲間達はどう思うだろうか。
皆、何を思うだろうか。
………あたし、帰れそうにない。
力が、湧いてこないの。
…あたしの中の一番はお父様で、あたしが鎚を握れるのはお父様のためで、あたしが頑張れるのはお父様がいるからで。


