…二人の頭上を、暗闇を背景に火の粉とは違う赤色が舞う。
洞穴の壁に止まり、羽根を休める『鏡』は………幽閉されている大長、その人を映したままだった。
よろめきながらなんとか立ち上がるハイネは……そこに映る主の成れの果てを、呆然と見詰めていた。
「―――………お………大…長………?」
薄く開いた唇から、白い吐息と共に弱々しい声音が漏れ出る。
「………お前ら馬鹿共は、今までその『鏡』で一体何を見ていたんだ?………真実を映す虫とやらは、最高に役立たずだな…!」
ゲラゲラと笑い飛ばすや否や、ゼオスはグッと前へ一歩踏み込み、剣を斜めに傾けて刀身を反らした。
反射的に後ろへ跳び下がるドールだったが、ゼオスは隙を与えてはくれない。
そこから更に前へと踏み出し、体勢の整り終えていないドールの小さな身体に、ゼオスは横一文字を描く一閃を放ってきた。
12歳といえども、女といえども、ドールは腕の立つ一端の武人。そこらの男の剣などとは比べものにならないくらいの力量は持っている。
通常の攻撃ならば、容易に避けられるし、跳ね返せる。
だがしかし。
………力も速さも戦術のセンスも優っている、この大男の一撃は……避けられない。
……勝てないなんて、分かっている。
最初から分かっている。
相手と自分の力の差ぐらい、理解出来る。
(―――…負けたくない)
負けたくない。
負けたくない。
負けたくない。
「黙れぇっ…!!」
避けられないのなら、受け止めればいい。
避けるつもりなど、毛頭無い。
一寸の狂いも無く、的確にこちら目掛けて迫りくる一閃に向かって、ドールは渾身の力で鎚を振るった。


