「それがおかしいと言っているんだ、愚か者め。………小娘の目がおかしくないとするなら、その虫の目が節穴なんじゃないか…?………法螺を吹いているのはどっちだか…。………もう一つだけ良い事を教えてやるよ。…信じる信じないはお前の勝手だが……っと!」
上手く動かない片腕を駆使して切り掛かってきたハイネの剣を、ゼオスは軽く受け止めた。
重なり合った刃の向こうから、無駄口を叩くな、と呟くハイネを鼻で笑う。
そんなの、信じない。信じてたまるものか。
始終頭の中を駆け巡っているその頑なな意思に反して…ドールの震える手は………静かに、『鏡』を呼び出していた。
小さな手の平の中で火の粉に似た明かりが瞬いたかと思うと、それは真っ赤な蝶の姿に化けた。
揺らめく儚げな木の葉の様な、脆く薄い羽根。
…ふと視線を下ろせば。
本の少しだけ首を傾ければ。
羽根を見れば…この胸中で渦巻く気持ちの悪い何かは、霧の様に立ち込める悍ましい何かは、さっと…晴れるだろう。
何を、疑っているのだろう。
あたしは、何が。
何が、そんなに。
ドールの小刻みに揺れる瞳は、ゼオスに立ち向かうハイネから………自分の手元へと下りていった。
焦点の定まっていないあやふやな彼女の視線は形の成さない虚無を通り過ぎ、真っ赤に染まった美しい羽根を、視界の中央に…置いた。
見たままの真実しか『鏡』は映さず、そしてそこにはある。
揺るぎないものがある。
あたしは。
何がそんなに。
「―――………あ…」
そこにあるのは、大長の姿。
この世で一番尊敬していて、大好きな、あたしの、たった一人の。
父の、姿。
先程見た時と同じ、裂けて薄汚れた衣服を纏い、壁に寄り掛かった。
上手く動かない片腕を駆使して切り掛かってきたハイネの剣を、ゼオスは軽く受け止めた。
重なり合った刃の向こうから、無駄口を叩くな、と呟くハイネを鼻で笑う。
そんなの、信じない。信じてたまるものか。
始終頭の中を駆け巡っているその頑なな意思に反して…ドールの震える手は………静かに、『鏡』を呼び出していた。
小さな手の平の中で火の粉に似た明かりが瞬いたかと思うと、それは真っ赤な蝶の姿に化けた。
揺らめく儚げな木の葉の様な、脆く薄い羽根。
…ふと視線を下ろせば。
本の少しだけ首を傾ければ。
羽根を見れば…この胸中で渦巻く気持ちの悪い何かは、霧の様に立ち込める悍ましい何かは、さっと…晴れるだろう。
何を、疑っているのだろう。
あたしは、何が。
何が、そんなに。
ドールの小刻みに揺れる瞳は、ゼオスに立ち向かうハイネから………自分の手元へと下りていった。
焦点の定まっていないあやふやな彼女の視線は形の成さない虚無を通り過ぎ、真っ赤に染まった美しい羽根を、視界の中央に…置いた。
見たままの真実しか『鏡』は映さず、そしてそこにはある。
揺るぎないものがある。
あたしは。
何がそんなに。
「―――………あ…」
そこにあるのは、大長の姿。
この世で一番尊敬していて、大好きな、あたしの、たった一人の。
父の、姿。
先程見た時と同じ、裂けて薄汚れた衣服を纏い、壁に寄り掛かった。


