ゼオスは忌ま忌ましそうにハイネの剣を押し返し、一旦後退した。
ハイネは再び片手のみで剣を構えるが、彼が守る当の少女はというと…開いたままの唇をわななかせたまま、呆然と佇んでいた。
オレンジの明るいつぶらな瞳は、今は不安や恐怖といったもので揺れに揺れている。小さな声で何かを確かめるかの様に、ドールは呟く。
「―――…嘘よ。嘘…嘘に決まってる…嘘ばっかり…死んでる…?死んでるなんて…そんなの全部嘘よ」
「―――…っ…長!!」
ハイネは前方のゼオスから目を逸らさぬまま、ドールに向かって大声を張り上げた。
「……当たり前です…!……こいつらの言っている事なんか、どれもこれも嘘ばかりじゃないですか…!………大長が…死んでいるだなんて……そんなまさか…」
「………心外だな?…嘘を吐くのは楽しいが、デマばかり吐くって訳じゃねぇよ………そうだ、その通りだ、小娘。………お前の親父なら、とっくの昔にくたばっているのさ…」
「うるさいっ!!うるさいのよ!!」
ゼオスは何を訳の分からない事を言っているのだろうか。
とっくの昔に…?大長が…?
…そんな筈無い。つい先程『鏡』で見た大長は、死んでなどいなかった。
第一、大長が死ぬような事があれば『鏡』の分身は消えてしまい、あの赤い羽根には何も映らなくなる。
分身が消滅した際も『鏡』の本体に大きな変化が見られるため、異変はすぐに分かる様になっているのだ。
…その『鏡』が、これといった反応を何も見せないのだ。………ゼオスの言葉など、でたらめに決まっている。
嘘八百の奴と比べて、『鏡』は見たままの真実しか映さないのだから…。
「………『鏡』は、嘘を吐かないわ。………大長はちゃんと生きているわ!」


