ここデイファレトは、王政が崩壊してから……もう長い間、極寒の世界が続いている。
……渓谷の多い、凹凸の激しい果てしない大地は、全て真っ白に染められている。
何処を歩いても、雪と氷の大地。
木々という木々は氷のオブジェと化していて、深い森はとても幻想的で…まるで………ガラスの世界。
遠い昔。サラサラと流れていたであろう川や湖は、その表面に分厚い氷の蓋が被せられ、どれだけ衝撃を与えてもヒビ一つ付かない。
………大半の生き物は寒さに耐えられず、死んでしまった。
この世界でたくましく生きるのは、僅かな人間と、体力のある獰猛な獣や、突然変異した奇妙な生き物だ。
………雪の大地を見続けるデイファレトの民には、身分のある貴族の末裔、家を持つ商人といるが………ほとんどが、家を持たない流浪の狩人。
生まれてから死ぬまで、この大地を彷徨い続けるのだ。
レトも幼い少年でありながら、父と共に過酷な旅をし続ける狩人だった。
レトのマントの内には、狩人である証しの剣が、眠っている。
レトは父の大きな背中を追って、凍て付いた森の中を歩いて行く。
「―――………父さん、依頼品はどうしたの?」
「………運良く手に入った。………今から依頼主のいる街に持って行く。…………レト、傷が付いてはいけないからな………後ろを持て」
…そんな会話をしながら二人が辿り着いたのは、立ち並ぶ木々は折れ、地面は抉れている………妙に荒れ果てた、森の中の小さな広場だ。
………荒れ果てているならまだいい。しかしそれに加え…………その場一面に、物凄い異臭が漂っていた。


