その強大な力によって長にまで上り詰めた、全てに優るものは力以外の何物でもないと信じて疑わない愚かな人間。
数年前までは別の人間が長だったらしいが、このゼオスが乗っ取ってからは、赤の武人の品格も落ちるところまで落ちた気がする。
腐った威厳とガキ同然の傲慢。獣の様な闘争心に慈悲の欠片もない非人間的性質。
血も涙も無い、可哀想な輩。
「……あんたまでこちらに駆り出されたってこと?……長にしては案外、随分と暇なのね…?……お気の毒だこと…」
…不敵な笑みを浮かべるゼオスの背後に、吹雪に塗れて数人の人影が朧げに見えた。そのシルエットの垂れた腕には、妖しく光る刃の輪郭。
とっくの昔に鞘から抜き取られていたらしいそれらは、降りしきる雪と風をその身で裂いていた。
ドールは静かに、ハイネの元へにじり寄る。
……ゼオス達は、合流をしに来たわけではない。それはこの突き刺さるような殺気が物語っている。
訳が分からない。しかし、危険だ。
危険だ。
本能が声なき声で、頭の奥底から叫んでいる。
「……その暇な長が…何をしに来たの?……まさか、わざわざご丁寧に挨拶をしに来てくれた…なんてことは無いんでしょうけど。………………どうなのよ…!」
「……どう?……どうなのか、と訊かれてもな……?………見た通りのままさ…間抜けなドール嬢…」
そう言って、ゼオスはその場でゆっくりと…剣を構えた。
片手のみで剣を扱う、体術を交えた素早い動きが特徴のバリアン独特の剣術。
ゼオスの構える剣の切っ先が真っ直ぐにこちらを向き、ドールはギリリと奥歯を噛み締めた。
「答えになっていないわ!!」
曖昧なことしか言わないゼオスに怒りを露わにしたドールは、巨大な鎚をゆっくりと持ち上げて臨戦体勢に入った。
…今ここで空間を叩けば、この洞穴は崩れるだろう。ゼオス達どころか自分達も後が危険だ。


