―――…一面、純白の世界。
右を見ても、左を見ても、空を見上げても、下を見ても。
何処もかしこも、真っ白。
昼間だというのに、空に太陽は無い。あるのは分厚い分厚い雲の塊。
非常にゆっくりとした動きで、途切れない雲は流れて行く。
何処までも果てしない筈の空を、窮屈そうに。
………埃の様な白い粒が、フワリフワリと舞い降りる。
芸術とも呼べる美しい結晶が、仲間を連れて舞い降りる。
冷たい冷たい芸術が、閉じた瞼にそっと………腰掛けた。
真っ白な雪はあっという間に溶けて………消えてしまった。
「………」
―――柔らかい深雪の、何色にも染められていない真っ白なキャンパスの中央。
その中で少年は座り込み、目を閉じ……………降り出してきた雪の冷たさを、伸ばした両手と頬に、感じていた。
………あっという間にかじかんでいく、小さな細い指先。
元々真っ白な肌は更に白くなり…いつの間にか赤らんでいた。
小さな唇の上に舞い落ちた一粒の雪は、漏れ出る白い吐息で溶けた。
長い睫毛に引っ掛かった結晶が、瞼を開くと同時に、ハラハラと花びらの様に散った。
白い世界で、白い世界を独り…静かに感じているのは、背丈も小さい、華奢な少年。
10、11くらいの幼い少年は、この極寒の世界に耐えれる様な、毛皮を加工した分厚い服を着ていた。


