怒り狂った老王は玉座から腰を上げ、目下のローアンに向かって腕を伸ばした。
……どんなに手を伸ばしても、杖を振り回しても触れられない老王とローアンの距離だったが。
………しかし、伸ばされた老王の骨張った手の平が…………。
………赤い炎を纏った。
「―――っ…!?」
ローアンは反射的に身構えた。
―――その直後、老王の手から巨大な炎の玉が現れ………ローアン目掛けて急降下してきた。
「―――…ローアン様!!」
「来るな!!」
剣を抜いたアレクセイが走り寄ろうとしたが、ローアンはそれを制した。
火の粉を散らす炎は、勢い良くローアンの頭上目掛けて落下してきた。
………その炎の塊に向かって、ローアンはまるで剣で切りつけるかの様に、右腕を振り払った。
―――…炎が白い指先に触れるか否かという寸前。
………燃え盛る真っ赤な塊は、彼女の手の平に吸い込まれる様に…………跡形も無く、消えた。
「………!?」
振り下ろした白い手は火傷一つ無く、代わりに真っ黒な煙の様なものが纏わりついていた。
………何故炎が消されたのか。
何が起こったのか分からない老王は、驚きのあまり目を丸くした。
「…………貴様……!……その歳で…白の魔術が使えるのか……!?」
額に浮かんだ冷や汗を拭い、ローアンはキッと老王を見据えた。
「………白の魔術は、まだ練習中で使えません。今のは“闇入り”という……我が国の独特の戦法です………老王よ……………こんな無駄な争いをしている場合ではありません…!」


