…城に仕えていた頃。
こんなおばあちゃんではなくて、まだ少女だった頃の…懐かしい記憶。
気高き陛下の息子である第一王子様は、イーオからすれば幼なじみ同然で………毎日毎日…遊び回っていた。
笑顔を向けてくれる王子。
…勉強は嫌い。すぐに部屋から抜け出しては、陛下や召使を困らせる。
走り回る彼はまっすぐに、遊び相手のイーオの元へとやってくるのだ。
お城で王子と同年代の子供は、イーオくらいしかいなかったせいもある。
その度にイーオは強引に車椅子を引かれ、庭へと連れ出されるのだ。
王子。
王子。
陛下が呼んでるわ。
お説教かしら。
イーオもお供します。だから行きましょう、王子。
王子。
(……………あの戦火の中…皆離れ離れになってしまったけれど。……………ちゃんと…生きていて下さったのね……)
…生きていた。
その証拠が…この、目の前の少年。
…ユノという名の王子だ。
彼の、子孫。
年月から考えて、この子は孫にあたるだろう。
………もう、五十年も昔だったか。バリアンからの戦火にまかれた後……王族は行方知らず。亡くなったのでは…と半分諦めていた。
だがしかし。
捨て切れなかった望みは……今日というこの日、この夜………叶えられた。
「………運命の神様は、焦らすのが好きなのね。……意地悪だこと」
独り呟きながらクスクスと笑みを漏らした後。
………それまで優しい眼差しだったイーオの目付きがスッと…変わった。
乱れ髪を指で耳にかけ、カーディガンの袖を少しだけ捲った。
意識の無いユノを見下ろしながら…イーオはポツリと呟いた。
「………離れていてちょうだい。……少し、多めに『力』を使うから…」


