ああ、心配して損した。
「チーチチーチー」
人の気も知らないで…と、イブは歌ってばかりで無防備な雛鳥の丸っこい身体を鷲掴みし、抱えたままの少年のフードの中に押し込んだ。
…よく分からないが、どうやらこの狩人の少年にえらく懐いている模様子。フードから顔を出し、可愛いらしいその鳴き声で未だ意識の無い少年にずっと話し掛けている。
……とりあえず、今はまだ警戒を解ける状態ではないため、鳴き止んでほしいのだが。
「………ちょっとー、いい加減に…」
―――止めてよ、と続けようとした言葉は舌の上まで来た瞬間、出番も無く…そのまま飲み込まれた。
同時に、今の今まで縦横無尽に流れていた雛鳥の鳴き声はプツンと途絶え、甲高い歌は突然押さえ付けてきたイブの手によって中断されてしまった。
…突如訪れた、沈黙。
大きく開かれた鋭い目で、ゆっくりと降りしきる純白の雪に塗れた視界を隈なく映す。
並外れた聴覚が、辺りを徘徊する音という音を掴みとる。
………ゆっくりと、身構えた。
―――…三人…。
―――…いや、その後方にも五人。……まだ増える。
“闇溶け”の一種である思念伝達で、イブとリストは互いに頭の中で受け答えを繰り返す。
隠す気などさらさら無い、とでも言うかの様なあからさまな敵意の塊を、二人の優れた感覚はほぼ同時に察知した。
敵と判断していいその気配は…だんだん増えている。微かに聞こえてくる足音や息遣いからして、合計は約十二、三人程度。
多くはない人数だが………嬉しくもなんともない。
―――こっちに来てたりする?
ニッコリ、と作り笑いを浮かべるイブに対し、傍らのリストは………………鼻で笑って返した。
―――………そうでなかったらどれだけいいだろうな。
「退、散!」


