亡骸となってから、まだそんなに時間は経っていないのだろう。次第に冷たくなっていく温い体温がそれを物語っていた。
だいぶ高い上空から落下したのか、厚い積雪に勢いよく減り込む形で横たわっている。あの炎を纏っていた真っ赤な美しい姿は今は無く、雪と砂利で汚れた死骸は妙に痛々しい。
ゼオスはいかつい手で凍てついていく真っ赤な羽毛に触れながら、怪しい笑みを更に深めた。固い指先が、まだ柔らかい死体の肌にグッと減り込む。
「………やけに、綺麗な死体だと思わないか…?…切り口も無え…貫いた痕も無え。……致命傷は……この背骨の粉砕…しかも打撃ときた。…一発だ。一発しか喰らって無えんだよ」
「………」
…一発?怪鳥サラマンダーを?
……容易に信じることは出来ないが、ゼオスが嘘を吐くとは思えない。確かによく見れば、死体には血痕も傷跡もまるで無く、背中から首にかけてが不自然に折れ曲がっているだけである。
背中に触れてみると、そこにある筈の固い感触の背骨が砕け散っていた。
……殺し方からして、この国の狩人とやらとは違う気がする。彼等の戦法は主に弓と剣によるもの。残していくのは無残な死骸ばかりだ。
「……この周辺には何がある…?」
「…街が、一つ。……昔は北北西にありましたが、嵐の影響により今は西に移った街で………街と言っても、人口は僅か十数人のただの集落。老いぼれしかいません…」
「……適当に兵を掻き集めてそこに放て。………サラマンダーを殺った奴が隠れているかもしれねえ……要注意、だ。見つけたら、必ず殺せ」
そう言って、ゼオスは腰を上げた。雪に埋もれていく死骸を「役立たずが…」と呟きながら軽く蹴飛ばし、マントを羽織り直した。
「……俺は先に潜伏している一斑と合流する。何かあったらすぐに連絡しろ」
「もう行かれるのですか?」
…前衛の潜伏班からは、まだ連絡が取れていない。向こうがどういう状況にあるのか知らないが、ゼオスはこちらから行くと言う。
有無を言わせぬ大きな背中が遠ざかっていくのを部下はただ見詰めるのみ。その視線を感じながら、ゼオスはフードの内でにやりと笑った。
「………お転婆なドール嬢への挨拶は早いところ済ませたいからな」


