亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~




三つの瞳で目前の白い猛威を捉え、リストはいつの間にか牙が並んでいる口を開いた。

スッと息を吸い、小刻みに喉を鳴らし。





虫の羽音の様なか細く小さな声を……雪崩に、放った。






















『―――…………ティー………ル…』



















高周波と低周波が入れ混じった不協和音。
か細い音色が降りしきる吹雪の中で空気を震わせた途端。











ーーー…パンッ、と何かが破裂した様な、嵐の爆発とは違う不可解な音が遠方にまで響き渡った。
波打つ衝撃音は鼓膜を小刻みに叩き、やがて風に掻き消された。























「―――………今の音は何だ…」

「………分からない。だが……近かったぞ…。…ここから西の方角だ」

「………さっきまでここにいた連中じゃないか?」

そう言って、鋭い目は正体不明の敵を追う様に音源の方を見詰める。
しかし、相変わらず視界に映るのは見飽きた純白の世界だけで、これといって目を引くものは何も無い。

無言で裸の剣を鞘に納めながら、先程から傍らで屈んでいる上司に視線を移した。
深く被ったフードでその怖面は見えないが、それが逆に怖い。











「……如何致しますか…ゼオス様…」















部下から名を呼ばれた、身長ニメートルを越す大柄の…警戒心を抱かずにはいられない様な、殺気に似た危ない雰囲気を纏った男…ゼオスは、何が面白いのか笑いながらこちらに振り返った。


「見ろ」、と呟きながらゼオスが指差すその先には……つい先程見付けた、サラマンダーの死体。
この辺りの偵察として飛ばせていたこの鳥は、本の数分前に何やら不審者を発見したらしく泣き叫んで追跡をしていた筈だったのだが…。

鳴き声を便りに追い掛けて見れば……この様だった。