下手に動きが取れないそんな最中、運命の女神はどれほど二人をいたぶれば気が済むのか。
追い打ちをかけるように、頭上の崖の淵で小規模の雪崩が発生した。
小規模と言っても、人を四人飲み込むには充分な大きさである。
…先程の、激しいが中身の薄い口論が仇となったらしい。
自分達を追うように流れ落ちてくる真っ白な波に、サー…と軽く青ざめる二人。
あれを回避する術も、今は無い。こういう時、ダリルの技やローアンの白の魔術が使えたらなと常々思う。
どうしようもない状況下だが、身体は反射的に身構える。滑り落ちている中で身構えるなどまず出来ないが。
「―――………………吹っ飛べばいい…」
…不意に、リストが口を開いた。切羽詰まっているからといって、この男は急に何を言い出すのか。焦躁に駆られるあまり、頭がパンクしてしまったのだろうか。
「は?………あんた、何言って…」
「吹っ飛ぶんだよ!俺らが!…あの雪崩に直接衝撃波をぶち込んで、雪崩ごと散らせばいい。………ただ、俺らは同時に衝撃波に煽られて吹っ飛ぶがな」
雪崩一つを分散させる。
…それにはかなり大きな力が必要となる。殴る蹴るなどの直接且つ物理的な力は駄目だ。
……やはりここは魔術しかない。
吹っ飛んだ後どうなるのかは分からないが……何とかしてみせる。
「俺がやる!……ガキをしっかり抱えておけよ…!」
隣から聞こえてくるイブの抗議を無視し、リストは迫り来る雪崩に再度向き直った。
敵意も悪意も殺意も無い、純白で無機質な雪。
互いの距離はどんどん縮まり、雪崩はとうとう目と鼻の先にまで追いついてきた。
リストは一度両目を閉じ、そして開くと同時に………真っ赤な第三の目を、表にさらけ出した。


