亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



さすがは過酷な自然と共に生きる狩人、とでも言うべきか。
意識が無くとも異常な警戒心を常に宿した身体は、何かしらの気配を察知すると無意識で攻撃体勢に入る様だ。
その証拠に元凶である狩人の少年は、現在進行形で意識も無くイブの動きに呼応して揺れているだけだ。人畜無害な少年に戻っている。

そんな馬鹿な…と呆気にとられる二人だが、現にたった今、幸い怪我は無かったがその被害を受けた。

…避けた代償は崖から落下と、なかなか大きいが。

「あたしが思うに単にあんたが幸薄なだけなのよ!!運が無いのよ運が!!」

何だとこの野郎!!、とか聞こえた気がしたが、積雪の急斜面に背中から落ちようとしているイブに答える暇は無い。後で相手をしてやろう。






イブは視界いっぱいに広がっていく真っ白な地面との距離を見定めながら、空中で身を捻り、狩人の少年を庇うように両腕で抱き込んだ。

半分だけ人間の身体から本来の野獣フェーラへと変化させ、鋼の如き耐性を持つ強靭な身体で地面と勢いよくぶつかった。
背中から思い切り落ちたが、打たれ強い肌への痛みは皆無だ。



リストを上手く受け身を取り、大きな衝撃を回避したが……一面雪の急斜面は思っていた以上に滑りがよく、氷と化した表面に爪を立てても長い直線を引いていくだけで、滑りは止まらない。

体重をかければかけるほど、速度は増すばかりだった。



つるー…と滑っていく間抜けな姿は滑稽に違いない。終わりの見えない滑り台が、二人の動きを完全に奪ってしまった。

………徐々に速度が増していく中、子供をしっかりと抱えた二人は半ば途方に暮れながら互いを見やった。
上に上がるのは、もはや無理だと認めよう。
このまま滑り落ちていくとどうなるのか分からないが。