風に揺れて一際大きく揺れたかと思うと、自らのマントの内に滑り込んだ。
一秒にも満たない素早い動作を、並外れた動態視力を持つ二人の眼球が追う。
再び懐から現れた小さな手には。
―――…それはそれはもう、よく磨かれた鋭利な光を放つ…とってもよく何でも切れそうな。
ナイフが、飛んで、きた。
「「―――っうあああああ!?」」
反射的にのけ反った二人の鼻先すれすれを、一本の小さな刃が目にも止まらぬ速さで通り過ぎる。
銀に輝くナイフは空を切り、雪空の彼方へと消えた。
一体全体、何が起こったのか。
冷静になって考えようとする二人だが、生憎、そんな暇は無かった。
一難去ってまた一難。
泣きっ面に蜂。
七転八倒。
………のけ反ったために本の少し進路から外れ、二人は揃って脇に所狭しと並ぶ木々の群れの奥へと飛び込んだのだが。
その先に広がっていたのは、崖に等しい急斜面。
真っ白に染まった一面は実に滑らかで、それでいてなかなか高い崖で、掴める木々や根などろくに生えておらず、遥か下方はいつか見た谷と同様に真っ暗闇で。
足場も無く。
残された選択肢は重力に従って『落下』、あるのみ。
――ズン、と気持ちの悪い一瞬の浮遊感に襲われたかと思うと、二人はやはり揃って高く広大な急斜面を半ば転がり落ちる様に落下していった。
「にゃあああああ―!?何今の不意打ち!起きて……えっ、ちょ…この子寝てるんですけど!?やっぱり意識無いままなんですけど!無邪気な顔してなんつー恐ろしい寝相を…!」
「ほらっ!ほら言っただろ!だから言っただろ!!関わるからこうなるんだよ!ろくな事無いんだよ!」


