子供といえども、剣を所持する一端の武人。生まれながらに敵へ向ける牙くらいは持ち合わせているのだ。
侮り、難し。
今、この小さな虎を起こしてしまえばどうなるのか。
……今までの経験上、自然、とっても嫌なビジョンしか浮かんでこない。
「とにかく、起こすな。いいか、起こすな。このまま突っ走るぞ」
速度を緩める事なく、二人は森を駆け抜ける。子供が起きない様に気にかけながら疾走を続けた。
「起きてもらった方が、あたしとしては荷物減って嬉しいんだけどなー…」
「ふざけた事言うな!これが一番安全なんだよ!肉体的にも精神的にもこのままが一番幸せなんだよ!平和なんだよ!!」
…狩人という存在が半分トラウマと化しているらしいリストは、やけに必死だ。まぁ、無理も無いが。
白い悪魔、と例えた狩人は確かに恐ろしいが、今抱えているのは成人にもなっていないであろう、まだまだヒヨッ子の子供だ。
じっくりと観察はしていなかったが、よく見れば色白で、睫毛も長くて…女の子かというくらい本当に綺麗な顔をしている。
まるで人形みたいだ。
「……しかぁーし、大人の魅力ではこのイブちゃんには敵うまい。………こんな眠れる森の狩人君、怖くもなんともないけどなー」
そう言って、無駄に警戒するリストに調子に乗って茶茶を入れるイブ。すぐさま憤慨したリストが再び罵声を飛ばそうと口を開いた。
その瞬間、だった。
抱えられたまま、ただただユラユラと揺れていた狩人の少年の腕。
華奢で色白だが、一端の武人である事を物語る剣だこや弓だこのある小さな手。
力無く揺れていた一本のその手が。


