「…っ…!?………おいっ…その鳥黙らせろ!」
「チーチーチーチィー」
「………え。じゃあ、ちょっとばかしプチッて潰しちゃう?大丈夫。痛みなんて一瞬だから…」
「恐ろしい事言うな!他に選択肢は無えのかかよ!」
「チーチーチーチー」
…これでは敵に居場所を教えているも同然ではないか。
プチッと潰してしまうのは可哀相だが、なんとかして黙らせねば本当にプチッとやることになってしまう。
…出来ればそれは避けてあげたい。
だがしかし。
「チーチーチーチーチーチーチー……チュチュッチュッチュゥ―…」
鳥がこちらの気などつゆ知らず無駄にハミングを利かせ始めると、もうプチッとしてもいいのではないか、という考えが苛立ちと共に急浮上してきた。
たかが鳥。たかが歌。耐えろ俺。
「どうにかしろよてめえ!!ここまでの道程を全部泡にする気か!」
「分かぁーってるって!そんなに叫ぶな!この騒音リスト!!」
「誰が騒音だって!?ああ!?」
「あんたよあんた!!馬鹿でかい声は自覚無しかよ!」
「お前だって言えたもんじゃねぇだろうが!!」
………ものの数秒で、二人の間には非常に下らない口論が生じた。罵倒に罵倒を重ねた口論は、障害物も何も無いこの大地ではよく響き渡る。
雛鳥の下手な歌など当の昔に掻き消され、歌うのを中断した揚げ句喚き合う二人を不思議そうに見上げている始末だ。
空気を震わせる騒音は小高い丘や崖の雪を揺さ振り、あちこちで小さな雪崩を引き起こす。
敵が気付いてしまう、というついさっきまで抱いていた警戒心は、一体何処へ行ってしまったのか。
もしかすると、もう既にこの二人の馬鹿でかい口論を耳にしているかもしれない。
そして、耳にしているのは。
敵ばかりでは、なかった。


