亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


暗くなると容易には動けない。
このデイファレトに棲息する獣は夜行性が多い。しかも、一部は産卵期であるが故に普段に増して獰猛だ。生まれてくる我が子のために腹を満たそうと獲物を探し回っている。


………それはそれはもう、色んな獣と遭遇し、格闘したものだ。

















一歩、ニメートル強の歩幅を維持したまま、二人は暗い森の中を駆ける。
人間の動態視力でギリギリ追い付けるか否かという速度はまるで突風そのもの。
降り積もった純白の絨毯を僅かに崩すだけで、足跡の様な目立った痕跡は残さない。

(……撒ける)

自分達を追跡する敵の気配が遠ざかり、ほとんど感じられなくなった頃、リストは安堵の息を吐いた。
まだ安心は出来ないが、とにかく危険を回避することは出来たとしよう。
敵との距離をこのままより広げ、また身を潜められれば…。
















―――…上手くいく、と思ったのも、束の間だった。





















「チチッチチチチッ。チーチーチーチー…」


















可愛い筈なのに今は苛立ちや憎らしさしか込み上げてこない、雛鳥の下手な鼻歌がイブのマントの内から甲高く響き渡った。

両手の平に収まるくらいの小ささの割には、その声はやけに大きい。しかもよく響く。そして音程など最高に無視した下手な歌だ。




突如湧いて出た不自然過ぎる騒音に、イブは慌ててマントを押さえた。
風に靡くマントの隙間から、愛らしい雛鳥の嘴が覗いている。

何故この雛鳥はこんな状況下でも歌うことにこだわるのだ。