亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



一秒にも満たなかったであろうその間。
リストのいつ何時でも忙しい頭は瞬時に正確な落下地点を予測し、自らの両足に「走れっ!」と上から目線で命令を下した。

(だから、なんで、俺がっ………!)

内心で悪態を吐くが、悲しいかな……どうやらお人よしらしい自分は素直に動いてしまう。
ほとんど無意識に脱兎の如く駆け出したリストは、弧を描きながらポーンと飛来してきた少年を易々と受け止めた。
そして両脇に子供二人を抱え直す。

…子守でもしているのか、とさえ思えてきた。







「二分…いや、一分だけちょうだい。すぐ終わるからー」

サラマンダーに向き直ったイブはニッコリと満面の笑みを浮かべていたが…その目は、少しも微笑んでなどいなかった。
おまけにその瞳はいつの間にか茶色から真っ赤に染まっているし……額の第三の目も、瞼を開いていた。

心なしか、緩んだ口元に牙が覗いている。
………半分本気の戦闘体勢に入っているではないか。


―――…退け、と叫んだ リストの声を、怪鳥の奇声が掻き消した。
蛇行しながら飛んで来ていたサラマンダーは一時旋回し、佇むイブ目掛けて矢の如き速さで真っ直ぐ突き進んできた。



舞い散る細かな雪を溶かしながら、赤い炎の塊は迫り来る。
岩をも貫く鋭利な嘴だ。


その灼熱の狂風を待ち構えるイブは、ゆっくりと身を屈めて二足から四足へと変えた。
ブンッと脇に軽く振った 右手からは、いつの間にか長く鋭利な爪が伸びている。
…こちらも、岩をも裂く強靭な爪である。
伸ばした爪の根元から先までを舌で舐め回し、三つの目を細めながらイブ はニヤリと笑った。

「―――…来い…」










イブの声を合図に、サラマンダーは巨大な火柱を吹いた。
さっきまでの攻撃とは比にならない程のそれは、周囲の木々を焦がして突き進む。