…追ってくるサラマンダーをどうやって撒こうか、と考えるが何も浮かばず、苛々するばかりだ。
…一々考えるのは苦手だ。
なるべくこちらの痕跡を残さず、バリアン兵士等の包囲網から上手く逃れるべく穏便に済ましたかったのだが………もう我慢の限界だ。
第一、逃げ回るのは性に合わない。敵に背を向けるなと教えられてきたイブにとって、逃亡ほど歯痒く屈辱的なものはない。
元々存在していたのか知らないが、あったとしても蜘蛛の糸程細く脆いイブの我慢という名の糸。
鰻登りだった怒りのボルテージは臨海点をあっという間に突破し…プツンと、綺麗に切れた。
その切れ方に、一切の躊躇いは無かった。
始終、前へと向いていた足は突如柔らかな積雪を削り、クルリと真後ろに向きを変えた。
何の前触れも無く立ち止まるや否や、サラマンダーに向き直ったイブ。
それを見たリストは目を丸くして同様に足を止めた。
…何を仕出かすか分からないトラブルメーカーのじゃじゃ馬娘、イブ。
そして今回もまた、何かやらかそうとしているのは明らかだった。
何故なら彼女の茶色く輝く瞳は…闘志を燃やしている…。
「………おい、お前っ!」
「………………最近、鶏肉食べてなかったなぁ…」
………あ、駄目だ。
こんな、何か予兆を感じさせる台詞を吐くこいつはもう、駄目だ。
…目を合わせないようにしよう。
まぁ、たまには自由行動も有りなんじゃないかな…と、何処か遠い目で日暮れ間近の空を仰ぎ見るリスト。
…途端、その視界の隅に映っていたイブがマントを脱ぎ、脇に抱えていた少年をグルグルと包み込んだ。
微動だにしない華奢なその身体を片手で掴んだかと思うと………。
―――ブンッ…と、こちらに投げてきた。
まるでゴミだか何かを投げ捨てるかの様な非常に荒っぽい動きで。
子供が、飛んでくる。


