その数秒後。
………巨大な雪崩は竜頭蛇尾の勢いで次第に小さくなり、谷底いっぱいに雪と瓦礫と氷を敷くだけ敷いて消え失せた。
…今の冷風で、谷の側面と縁が大きく削れてしまっていた。
到る所全てが半透明の氷で覆われ、真っ暗な谷底も地上からの微かな光を反射させて輝いていた。
…谷底は一変。
一面、氷のオフジェが無造作に並ぶ真っ白な世界と化している。
一瞬で出来た神秘的な世界の中。
その片隅で、純白とは真逆の漆黒の小さな塊が何処からともなく湧いて出た。
真っ黒な靄はぐらりと揺らめき、ぎゅっと闇を凝縮させたかと思うと、直後、二つの人影を空気中に吐き出した。
現れた人影の内……その一人であるイブは、額の汗を拭いながらぜえぜえと肩で息をしていた。
その後ろで地に膝を突いているリストは……心なしか、カタカタと小刻みに震えている。
「なんか…なんか異物が!!異物が入ったよちょっと!!うっかり失敗するところだった!!危なかった………いやぁー、危なかった………乗り越えたあたしって、天才…」
ふうっ…と、いい汗をかいたとでも言うかの様に晴れやかな笑みを浮かべるイブ。
その異物混入のせいで集中が途切れ、危うく意識が闇にのまれてしまいそうだった。下手すれば今後ろで震えているリストは原形を止めていない…もしくは存在すら消えていたが………幸いにも、彼はこのとおり五体満足だ。
精神の方は、酷く傷付いているやもしれないが。
「死ぬかと思った!!本気で死ぬかと思った!てめぇ!俺に恨みでもあるのかこの野郎!!」
「あるよ、一つや二つくらい」
「正直だなお前!!異物だか何だか知らねぇが今日という今日は許さねぇ…!」


